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日本のグリーンテックの投資機会 - アップデート

日本の自動車メーカーはEV戦略において世界の競合他社に追い付き、今後数年間で再評価が進むものと予想する。

  • 技術の急速な進歩、消費者の嗜好の変化、政府支援を背景に、世界の電気自動車(EV)市場は急激に拡大している。2030年には、世界の新車販売に占めるEVの割合は45%を超えるだろう。
  • 日本の自動車メーカーはEV戦略において世界の競合他社に追い付き、今後数年間で再評価が進むものと予想する。
  • サプライチェーンの混乱の解消と堅調な最終需要を背景に、企業利益は2022年も回復が続く可能性が高い。

日本の自動車メーカーがEV戦略で追い上げ

世界的なEV化の流れの中で、自動車セクターは日本のグリーンテックという我々の投資テーマにおいて重要な役割を果たしている。日本の自動車メーカーは、投資家から欧米競合他社に後れを取っているとみなされている。だが我々は、日本の自動車メーカーはここへきてEV戦略で世界の競合他社に追いつきつつあり、今後数年で再評価されると予想する。

直近数カ月、日本の大手自動車メーカーは自社のEV戦略の強化に乗り出している。国内最大手メーカーは今回、2030年のEV販売目標を、3カ月前の200万台から350万台へと大幅に引き上げた。同社販売台数全体のおよそ35%をEVにする公算だ。高級車ブランドについては2035年までに100%EVに切り替える計画だ。国内2位メーカーも2040年までに全車種のEV化、また3位メーカーは、2030年までに50%のEV化を目指す。バッテリー戦略については、日本の自動車メーカーは大手各社と提携しており、特に最大手メーカーはリチウムイオン電池(LiB)、鉄リン酸リチウムイオン電池(LFP)、全固体電池(SSB)など各種バッテリーの大量生産に乗り出す計画である。今後10年間のEV生産の拡大に向けた準備は着々と進んでいる。これは、今後2~3年間で、従来型の自動車メーカーと新興電気自動車メーカーとのバリュエーション(株価評価)格差に極めて重要な示唆をもたらすものと考える。

NEVポートフォリオ戦略が高い利益率要因に

世界の競合他社がEV(純粋なEVとプラグインハイブリッド車(PHEV))にのみ資源を集中させているのに対して、国内最大手メーカーはEV、PHEV、燃料電池車(FCEV)、ハイブリッド車(HEV)を含む次世代自動車(NEV)ポートフォリオ戦略を追求している。同社は多くの異なる分野で開発を行っており、それに対して投資効率を疑問視する声があることは理解しているが、同社は主要な電気自動車部品(高出力モーター、大容量インバーター、高付加価値空調システム等)をすべての車種で共有することで、比較的高い利益率とフリー・キャッシュフローを維持できると考える。同社は世界最大の生産台数と年間1,000万台近くの販売台数を誇り、その拡張性を生かしてNEVポートフォリオ戦略を追求できる数少ない企業の1つである。さらに、1997年に最初のハイブリッド車を発売して以降、世界をリードするフルハイブリッド車メーカーに数えられる同社では、内燃機関車の収益性とHEVの収益性に大きな差がない。同社の営業利益はここ数年でEVやバッテリー技術への投資を開始した世界の競合他社を大きく上回っており、今後EVへの移行過程においてもその差は維持される可能性が高い。

EV市場の世界シェアは2030年までに45%を超えると予想

世界のEV市場は、急速な技術の進歩と政府支援を受けて拡大している。欧州では今年年初からの新車販売に占めるEVの割合が約20%となり、中国ではNEVの販売は2倍に拡大している。バッテリーコストの低下や充電時間の短縮、自動運転機能の急激な改善が進む中で販売車種は日に日に増えており、EV市場は線形ではなく指数関数的に拡大すると予想する。我々は、世界の新車販売に占めるEVの割合は2025年までに約20%、2030年までに45%超に拡大すると考える(図表1参照)。2030年までの間、EV販売は毎年約30%の年平均成長率で拡大すると見込む。

コロナ禍からの回復の1

世界の自動車メーカーはこの1年、新型コロナウイルス感染拡大に伴うサプライチェーンの混乱に苦しんできた。日本企業も例外ではない。だが、半導体企業がフル稼働しており、他の部品不足も解消に向かっており、在庫の積み増しニーズが旺盛なことから、日系メーカーの自動車生産は2022年に過去最高を記録する可能性が高い。さらに重要なことに、自動車需要は、特に日本の自動車メーカーの主力市場である米国では衰えておらず、これが日本の自動車関連のグリーンテック銘柄の企業利益の力強い回復と、ひいては日本株式市場全体を上回る株価パフォーマンスを下支えすると考える。

大きなプレミアム格差

2020年以降、EV専業企業の株価評価には大幅なプレミアムが付与されている。現在、世界の自動車メーカーの時価総額上位10社のうち5社をEV専業企業が占める。2015年以降、従来型の自動車メーカーの中で最も時価総額が拡大したのは50%増加した米大手メーカーであり、2位が40%の国内最大手メーカーである。一方、EV専業の米大手メーカーの時価総額は33倍、次いで中国大手は8.1倍に拡大している。最近上場したEV専業の新興企業2社は、それぞれ今年12月と10月に初めてEVを出荷し始めたばかりだが、そうした企業でさえも時価総額では世界の第5位、第9位につけている。内燃機関車を扱う伝統的な自動車メーカーは著しく割安であるが、こうしたバリュエーション格差は数年後には縮小するものと考えている。

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本稿は、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社が作成した“Japanese equities: Japan greentech opportunities: update”(2021年12月21日付)を翻訳・編集した日本語版として2021年12月24日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
居林 通

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィスジャパン・エクイティリサーチ・ヘッド

居林 通

さらに詳しく

2006年9月にUBS証券株式会社にアナリストとして入社。以来、日本の株式、経済動向を分析し、国内・海外に発信している(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以前は1992年から2003年まで国内大手投資信託にてアジア株および日本株のファンドマネージャーを経験、その後2003年から2006年までヘッジファンドにて日本株の運用などに携わった。
日経CNBCなどにコメンテーターとして出演する傍ら、日経ビジネス、日経新聞、ロイターなどの各種メディアでも解説記事、インタビューなどを通してUBSの投資見解を提供している。現在の連載は週刊ダイヤモンド「株式市場 透視眼鏡」、日経ビジネスオンライン「市場は晴れ時々台風」。2001年エモリー大学ゴイズエタビジネススクール(米国アトランタ)にてMBA取得。

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