日本株式

振り出しに戻る、訳ではない

「オミクロン株」への懸念から、日本株式市場は11月25日以降大きく下落している。しかし、状況は8月とは異なり、これによって振り出しに戻ることはないだろう。

  • 新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」への懸念から、日本株式市場は11月25日以降大きく下落している。しかし、状況は8月とは異なり、これによって振り出しに戻ることはないだろう。
  • 日本はワクチン接種率が高く、抗ウイルス薬も2022年初に早期実用化が見込まれることから、2022年は経済活動再開の動きが持続しよう。
  • 岸田政権が直近発表した過去最大の経済対策(55.7兆円)が株式市場の上昇をけん引すると考える。
  • オミクロン株に対する懸念はあるものの、円安、国内の繰延需要、大規模経済対策が日本企業の利益成長を後押しよう。そのため、日本株式は足元のバリュエーションに基づくと魅力度が高いと考える。我々の投資テーマである「日本の正常化に備える」および「日本企業のガバナンス改善が株主リターンの鍵」を推奨する。

我々の見解

日本株式市場は11月25日以降、変異株「オミクロン株」への懸念から大きく下落している(図表1参照)。英国当局によると、オミクロン株のスパイクタンパク質は既存のワクチンがターゲットにしているものとは「大きく異なる」。世界保健機関(WHO)は11月26日、オミクロン株を「懸念される変異株」に指定した。これを受けて、日本政府は外国からのビジネス目的の入国を原則禁止した。しかし、状況は8月とは異なり、これによって振り出しに戻ることはないだろう。

念は残るものの、引き続き確信度は高い

新たな変異株の出現と政府の対応をめぐり投資家の懸念は高まっている。しかし、日本はワクチン接種率が高く、2度のワクチン接種を終えた人口の割合は大半の先進国を上回る77%に達しており、同変異株の影響を評価するのは時期尚早と考える(図表2参照)。また、新型コロナに対する新たな武器である抗ウイルス薬は2022年初めには実用化される見通しだ。抗ウイルス薬はスパイクタンパク質をターゲットにしていないため、新たな変異株に対する有効性を疑う根拠はないと考える。

そのため、現時点では、経済再開と製造業のサプライチェーン問題からの回復が、日本企業の来年の利益成長率を支えると考える(図表3を参照)。7-9月期決算発表を受け、我々は2021年度(2022年3月期)と2022年度(2023年3月期)の増益率予想を各々47%、9%から48%、10%に引き上げた。2021年度の利益成長率は、2020年度の実績が極めて低いことから48%まで上昇すると予想する。良好なファンダメンタルズ(基礎的条件)を考慮し、2022年度の増益率は10%と堅調な伸びを示すとみている。

図表4に示す通り、企業業績(純利益)はその後2~3四半期間は減益となり、2022年10-12月期に再び反発すると我々は予想している。この予想は、来年初めの米国の法人税増税の見通しを加味している。そのため、利益成長率は今後3~4四半期間にわたりマイナスとなるが、企業のファンダメンタルズ(基礎的条件)は依然良好と考える。

また岸田政権の過去最大の新経済対策(55.7兆円)が株式市場の上昇をけん引するとみている。株式市場は、タイミングと実行が不透明なことから経済対策の影響を完全には織り込んでいないものと考える。しかし、家計へのメリット、企業の研究開発(R&D)と設備投資(特に蓄電池、半導体業界)へのサポートを考慮すると、経済対策の効果は2022年前半には予想よりも大きくなるとみている。

過去のレポートでも指摘した通り、過去2年にわたり規制措置が取られたことで、旅行、宿泊、食事、その他の娯楽など国内サービスへの繰延需要が積み上がっている。オミクロン変異株によって緊急事態宣言が再度発令されたり、その他の規制措置が取られることにならない限り、繰延需要が解放され、景気拡大を大きく後押しするであろう。海外投資家は、日本の企業業績の着実な回復と割安な株価バリュエーションを見落としかねない。

株価バリュエーション

TOPIX(東証株価指数)でみた日本株式の12カ月先予想(コンセンサス)株価収益率(PER)は約13~14倍の水準にあり、過去10年の平均(15~16倍)を下回り、また年初の水準である18倍を大きく下回っている。オミクロン変異株は企業業績の底堅さと政府の景気支援の姿勢を今後試すことになるだろう。

オミクロン株に対する懸念はあるものの、円安、国内の繰延需要、大規模経済対策が日本企業の利益成長を後押ししよう。そのため、日本株式は足元のバリュエーションに基づくと魅力度が高いと考える。我々は、投資テーマである「日本の正常化に備える」および「日本企業のガバナンス改善が株主リターンの鍵」を推奨する。

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本稿は、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社が作成した“Japanese equities: Not back to square one”(2021年12月2日付)を翻訳・編集した日本語版として2021年12月7日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
居林 通

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィスジャパン・エクイティリサーチ・ヘッド

居林 通

さらに詳しく

2006年9月にUBS証券株式会社にアナリストとして入社。以来、日本の株式、経済動向を分析し、国内・海外に発信している(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以前は1992年から2003年まで国内大手投資信託にてアジア株および日本株のファンドマネージャーを経験、その後2003年から2006年までヘッジファンドにて日本株の運用などに携わった。
日経CNBCなどにコメンテーターとして出演する傍ら、日経ビジネス、日経新聞、ロイターなどの各種メディアでも解説記事、インタビューなどを通してUBSの投資見解を提供している。現在の連載は週刊ダイヤモンド「株式市場 透視眼鏡」、日経ビジネスオンライン「市場は晴れ時々台風」。2001年エモリー大学ゴイズエタビジネススクール(米国アトランタ)にてMBA取得。

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