COP26特別版
サステナブル投資の見通し
COP26は、パリ協定で定めた目標達成に向けて各国の取り組みを調整する、重要な会議となる。COP26は気候変動対策として、緩和、適応、資金、協働の4つの目標を掲げている。
2021.10.12
- 第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)の開催が迫ってきた。本レポートでは、COP26で議論される重要なトピックと投資家への影響について取り上げる。
- COP26は、パリ協定で定めた目標達成に向けて各国の取り組みを調整する、重要な会議となる。
- COP26は気候変動対策として、緩和(mitigation)、適応(adaptation)、資金(finance)、協働(collaboration)、の4つの目標を掲げている。本レポートでは、COP26の開催に向け注目すべき事柄と、ESG分野で生まれた投資機会をどのように捉えたらよいかを説明する。
COP26とは何か?
10月31日から11月12日にかけて、第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)が英国グラスゴーにて開催される。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の締約国が、COP26で、気候変動リスクに対応する計画を調整、設計、検討する。世界190カ国以上から代表団が英国のグラスゴーに集結し、新たな目標について公式に交渉と採決を行う。
1995年に第1回COPが開催されて以降、COP3では京都議定書が採択され、温室効果ガス削減目標と排出量取引制度が初めて導入された。2015年のCOP21ではパリ協定が採択され、世界の平均気温上昇を産業革命前に比べて2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力を追求するという長期目標が合意された。パリ協定では、すべての批准国が温室効果ガスの排出削減目標を「国が決定する貢献(NDC)」として、5年ごとに更新・提出することが義務付けられている。
COP26は、批准国が提出したNDCを評価する初めての機会であり、パリ協定で定めた目標に向けて各国の取り組みを調整する重要な場となる。今年6月現在、世界の温室効果ガス排出量のおよそ55%を占める59カ国が、2050年までのネットゼロ・エミッション(温室効果ガス排出実質ゼロ)を表明している。だがここ数週間で世界的にエネルギー価格が急騰していることから、COP26では、エネルギー安全保障と排出量削減への取り組みとのせめぎ合いが焦点になるだろう。一方、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、8月に公表した地球温暖化に関する報告書で、早ければ2030年にも地球の平均気温は取り返しのつかない臨界点に達すると警鐘を鳴らしている。
こうした状況から、各国の政策当局は、野心的な脱炭素目標の実現に向けた、より明確で実践的な戦略の立案を迫られるものと予想する。
COP26の4つの目標 – 緩和(mitigation)、適応(adaptation)、資金(finance)、協働(collaboration)
1つ目の目標、「緩和(mitigation)」では、1.5度目標を実現可能なものとするために、抜本的な排出削減策を通じて2050年までの世界規模でのネット・ゼロ達成に取り組む。しかし、2050年ネットゼロ実現に向けて官民一丸となって取り組んでいるものの、気候変動はすでに進行している。そこで2つ目の目標、「適応(adaptation)」では、こうした気候変動に備え、コミュニティや自然生息地を守ることを目指す。残る2つの目標「資金(finance)」と「協働(collaboration)」は、先の2つの目標を達成するための手段である。2009年、先進国は、開発途上国の気候変動への対策と適応の資金として、2020年までに年間1,000億米ドルを動員することに合意した。COP26では、この資金動員を維持する方法を模索するとともに、世界規模でのネットゼロを達成する上で金融機関が果たす役割が議論されるだろう。
グラスゴーには投資家、企業をはじめ、さまざまな団体も集まるが、10日間の会議では、気候変動リスクと自国の政治的な優先課題とのバランスを図る各国の高官協議が焦点となるだろう。
各国は温室効果ガス排出の問題が特定の国・地域で閉じない地球規模の課題であることを認識しており、これが積極的な気候変動外交を促している。これは、米中が気候変動で協力を約束したことからも見て取れる。それでもなお、COP26では国内からの圧力が表面化するおそれがある。
例えば、バイデン政権が法案可決を目指す気候変動対策には脱炭素化に向けた重要な条項が引き続き盛り込まれる見通しだが、その野心的な姿勢は当初案からはトーンダウンしている。また、排出量削減の主要な手段である「国境炭素税」についても、米国は及び腰になりつつある(EUは温室効果ガス削減パッケージの中に、すでに独自の炭素国境調整税を盛り込んでいる)。習近平国家主席は2030年までに二酸化炭素(CO2)排出量をピークアウトさせ、2060年までのネットゼロ・エミッション達成を公約している。だが、最近公表された公式の進捗報告書によると、大半の省がエネルギー集約度(単位GDP当たりのエネルギー消費量)の年間削減目標に届いていない。足元ではエネルギー価格の急騰も相まって、中国の各省で電力の使用制限や電力供給の停止が行われている。COP26を来月に控え、中国は上記の公約を維持すると予想される。中国政府は11日、電気を大量に消費する業種については電力会社側が価格を引き上げられるとし、電力の価格を自由化する方針を発表した。しかし、それでもなお現実は厳しく、脱炭素社会の実現に向けた航路には多くの難題が待ち構えている。
欧州委員会は、2030年までに域内の温室効果ガス排出量を55%削減する目標を掲げており、「フィット・フォー・55(Fit for 55)」と銘打った政策案が来春には採決にこぎつける見通しだ。また、一般にエネルギー集約度が先進国よりも高いとされる新興国の首脳陣は、COP26において、新興国には先進国よりも緩やかな脱炭素化への道筋を主張するとともに、先進国からの資金支援のコミットメントを求める動きも見せるだろう。