デジタル資産
分散型台帳とデジタル資産
暗号資産(仮想通貨)は、この数年で先端デジタル産業へと変遷してきた。 「分散型台帳とデジタル資産」に関し、重要な10のポイントをまとめた。
2021.09.16
主なポイント
暗号資産(仮想通貨)は、かつては得体の知れない、目新しいものとされてきたが、この数年で馴染みの言葉、そして先端デジタル産業へと変遷してきた。しかし、時代の最先端を行くものであるがゆえに変化のスピードが極めて速く、デジタル資産とその基礎となるテクノロジーの新展開については、市場参加者であっても遅れを取らないよう精通しておくことが必要だ。暗号資産やトークン価格の急騰、急落についてはメディアで報じられているが、注目すべきは価格だけではない。
「分散型台帳とデジタル資産」に関し、重要な10のポイントを以下にまとめる。
1. 分散型台帳技術(DLT)を使用することで、取引のスピードと透明性を高めつつ、コストを低減することが潜在的に可能である。
分散型台帳技術(DLT)は、当事者間の取引を促進するための代替ソリューションを提供する。例えば、DLTを導入し、DLT上に記録された取引・契約について特定の条件が満たされた場合に自動的に決済が実行される「スマートコントラクト」を適用することで、トレード・ファイナンス(貿易金融)サービスの強化を図ることができる。これは、いまだ取引の大半を書面で行っている中小企業や新興国市場などを中心に、コストの低減や効率性の向上に寄与するとみている。また、ブロックチェーン(分散型台帳)を活用して、決済、カストディ、貸株、担保管理など、トレード後のサービスのスピードアップとコストの低減を図ることも可能だ。
2. 効率性の向上は、金融システムへのアクセス拡張、格差縮小など、サステナビリティ(持続可能性)につながりうる。
銀行などの金融仲介を通さないブロックチェーン上に構築された金融サービス、分散型金融(DeFi)が、そうした将来像をすでに示唆している。摩擦の少ない、社会にとってより公平な金融システムだ。例えば、金融サービスへのアクセスを持つ人口の割合は、現状では世界人口の40%にとどまっているが、オンライン上のアクセスがあれば、DeFiの活用により金融サービス・アクセス人口の拡大を促進し得る。
3. 金融サービス産業に創造的破壊がもたらされ、既存企業にとっては脅威とチャンスが混在している。
共有プラットフォーム・テクノロジーは、効率性、透明性、安全性の向上に伴い、金融仲介機関のビジネスモデルを脅かしている。金融サービス産業にDLTによる創造的破壊がもたらされ、決済、ローン・シンジケーション、私募発行、トレード・ファイナンス(貿易金融)、株主登録の管理などの分野にその影響が及ぶ可能性があるからだ。しかし、既存企業はその規模の大きさと専門性を活かし、DLTを取り入れ、既存の顧客基盤を活用することが可能だ。
4. ヘルスケアから贅沢品にいたるまで多様なセクターにDLTを取り入れることで、2020年代の世界のGDPに1兆米ドルの押し上げ効果が及ぶと予想される。
自動執行プログラム契約のスマートコントラクトを活用することにより、革新的なプロダクトを生み出すことも可能だ。従来のインフラの下で運営しても利益が見込まれない、革新的なプロダクトだ。ヘルスケア、公共サービス、美術品や贅沢品などに、幅広くその恩恵が見込まれる。様々な試算があるものの、プライスウォーターハウスクーパースの分析によると、スマートコントラクトを応用することにより、2020年代の世界のGDPに1兆米ドル以上押し上げ効果が及ぶと予想されている。
5. テクノロジーのポテンシャル(潜在性)が高いとしても、価値評価が難しいことなどから、暗号資産自体には必ずしも魅力的なリスク調整後リターンは期待できない。
暗号資産は、キャッシュフローがなく、黎明期の普及を除いて実世界での使用事例がほとんどない。そのため、ファンダメンタル分析に基づく価値の評価方法は確立されておらず、コンセンサスも形成されていない。個別の暗号資産やトークンの価値評価のための枠組みがないため、足元の資産価格が潜在的な事業機会をどの程度反映しているか判断することが難しい。
6. 暗号資産の投資家は、様々な法律上、規制上、技術上のリスクにさらされている。
暗号資産への当局の金融規制は厳しく、また変わりやすいため、デジタル通貨を導入するにあたっての障壁となっている。また、国がデジタル通貨を創設するにあたっては、新たなプラットフォームへの移行に係る費用とリスクを高める要因ともなっている。また、中国などにおける暗号資産のマイニングを規制する試みは、導入に係るリスクの多くが本来二元的であることを示している。すなわち、個々の暗号資産、トークン、ネットワークだけではなく、暗号資産業界全体に影響を及ぼす傾向があるということだ。
7. 国債や金など、株式の急落に対してヘッジ機能を持つ伝統資産とは異なり、暗号資産は一般にポートフォリオの分散強化に資することは期待できない。
暗号資産は他の暗号資産との相関が高い傾向にあるため、暗号資産間で分散投資をしても効果を得にくい。一方、伝統的ポートフォリオにおいては、暗号資産と他の資産クラスとの相関は比較的低い。ただし、相関は時とともに高まっている。一般に、暗号資産によるヘッジ効果は、株価の急落に対してヘッジ効果を発揮する伝統資産には劣ると我々はみている。
8. プルーフ・オブ・ワーク・システムに基づく暗号資産は、環境への負荷が高い。
分散型台帳技術(DLT)は、将来的に社会にプラスの影響をもたらすことが可能だと考える。しかし、今のところ投資資本の大半は、社会にプラスの影響を与えるよりも、アルゴリズムの演算に多量の電力を消費することによるエコロジカル・フットプリント(環境に及ぼす負荷の量)やガバナンスの欠陥につながっている。そのため、現時点では、プルーフ・オブ・ワーク(暗号資産(仮想通貨)の安全性を確保するアルゴリズム、PoW)に基づくデジタル資産はサステナブル(持続可能)な投資とは考えていない。
9. こうした短所を考慮すると、暗号資産とトークンへの直接のエクスポージャーは、リスク許容度が高い投機的投資家にとってのみ魅力的といえる。
リスク許容度が高く投機的な投資家は、個別の暗号資産のボラティリティ(変動率)と大きな価格の振れを活用することができる。ただし、高いボラティリティと投資元本の恒久的な毀損に備える必要がある。
10. メインストリーム投資家は、イネーブラーやプラットフォーム・オペレーターを通してDLTに基づくエコシステム向けにサービスを提供する企業の先端技術にエクスポージャーをとることができる。
フィンテック企業は幅広い領域をカバーするため、有効な投資対象の1つになると考える。大手決済企業、プラットフォーム企業、先端技術(ブロックチェーン、クラウド、人工知能(AI)など)のディスラプター(破壊的企業)に投資機会がみられる。フィンテック企業以外では、イネーブラー(技術で目標を実現する企業)やプラットフォーム企業にエクスポージャーをとることを勧める。