Monthly Letter 10月号
新学期の始まり
北半球では新学期が始まったが、我々の世界でもさまざまな「教科」を学ぶことになる。「生物学」では、ワクチンが新型コロナウイルスによるさらなるロックダウンを妨げられるかどうかを学ぶ。
2021.09.16
北半球では新学期が始まったが、我々の世界でもさまざまな「教科」を学ぶことになる。「生物学」では、ワクチンが新型コロナウイルスによるさらなるロックダウン(都市封鎖)を妨げられるかどうかを学ぶ。「政治学」では、3兆5,000億米ドルの予算決議案を、上院と下院とも小差で可決しようとすると何が起きるかを知る。「経済学」では、米連邦準備理事会(FRB)による債券購入額の縮小が債券市場と株式市場にどう影響するかを見ることになる。「経営学」では、売上高と費用の上昇が利益率に及ぼす影響について考える。「生態学」では、「グリーンフレーション」(銅、アルミニウム、リチウムなど再生可能技術に必要な原材料の価格が上がること)の影響を考える。そして「現代史」では、ドイツと日本の動向を観察する。両国とも首脳が交代するからだ。
先月のレター「大気圏外からの帰還」では、家計所得の増加、小売業者の在庫補充、労働市場の回復に支えられて、今後数四半期は高い経済成長率が続くものの、正常水準に戻るまでの過程が投資の見通しを決めると説明した。本レターでは、現在誰もが気になる疑問をいくつか取り上げ、それらがポートフォリオにどのような影響を与えるのか説明する。
一部の国では新型コロナウイルスとの闘いに苦戦し、景気回復が鈍化する可能性はある。だが全体としては感染拡大の抑制は順調に進み、ワクチン接種率の高い国では新たなロックダウンの可能性は低いとの見方を我々は変えていない。調達金利の上昇、投入コストの値上がり、米国の法人税の増税も潜在リスクではあるが、力強い経済成長率が続く限りはグローバル株式の持続的上昇が阻まれることはないだろう。
戦術的(6カ月程度)には株式に対し強気の見方を維持する。中でも景気敏感株、具体的には世界経済の成長での勝ち組企業を推奨する。地域別では、日本株は新たな財政刺激策への期待から急ピッチで回復し始めており、短期的には最も上昇余地が大きいとみている。セクター別では、エネルギー、金融、ヘルスケア、および米国中型株を推奨する。債券については、スプレッドが縮小しており、利回りが低く、テーパリング(量的緩和策の段階的縮小)が迫っているため投資機会は限られるが、米国の変動金利シニアローン、アジア・ハイイールド債などを推奨する。
長期投資家には、炭素排出量ネットゼロへの移行が引き続き主要テーマだ。今月は、炭素排出量削減目標達成に向けた動きなどを受けて天然ガスと石炭価格が上昇した。これは、再生可能エネルギー生産量の確保とグリーン・テクノロジーへのニーズを示すものだ。オートメーションとロボティクス、サイバーセキュリティー、ヘルスケアなどのテーマにも長期的な投資機会が見出せる。
生物学:なぜワクチン接種率の高い国は秋から冬にかけて新たなロックダウンを避けられそうなのか?
5月以降、MSCI ACワールド指数のバリュー株はグロース株を8%アンダーパフォームしている。その一因として、デルタ株の感染拡大で新たなロックダウンが講じられ、景気感応度の高いセクターの活動が低迷するのではないかとの懸念が挙げられる。ところが、感染拡大にもかかわらず、入院率と死亡率は非常に低く、多くの行動制限措置を取る必要は避けられそうだ。北半球が秋から冬に近づいているものの、ワクチン接種率の高い国で新たなロックダウン措置が取られる可能性は低いとの見方を変更しない。
最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
さらに詳しく
プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。