日本株式
キャッチアップ局面は終了。今後の展開は?
アンダーパフォームが続いてきた日本株式市場がようやく上昇してきた。割安感が薄れているものの、この先明るい材料が控えており、株価回復基調は今後も続くものと予想する。
2021.09.17
- 半年ほどアンダーパフォームが続いてきた日本株式市場がようやく上昇してきた。足元のバリュエーションは割安感が薄れている。
- だがこの先明るい材料が控えており、株価回復基調は今後も続くものと予想する。
- まもなく期待される緊急事態宣言の解除も、相場の上昇基調を後押しし、来年の企業利益を押し上げるだろう。
我々の見解
我々は8月11日付レポート「堅調な企業利益にもかかわらずパフォーマンスは低迷」の中で、日本株式がここ数カ月低迷してきた理由として、ワクチン接種ペースの遅れと不安定な政治情勢の2つを挙げた。
だが、8月後半からの急ピッチな回復で日本株式はその他主要市場に追いついてきた(図表1参照)。菅総理大臣の自民党総裁選への不出馬を受けて、市場では新総理が追加財政刺激策を繰り出し、それが恐らく11月に行われる衆議院議員選挙での自民党勝利に貢献するとの思惑が高まり、急速に値を上げた。政情不安の後退に加え、ここ数カ月で日本のワクチン接種率が加速していることも一因だ(図表2参照)。
その結果、海外投資家がアンダーウェイトを縮小しようと急いで日本株式を買い戻したため、ここ3週間ほどで株価が約13%急騰した。日経平均株価は今年2月以来となる30,000円を抜けて年初来高値をつけた。だが今回の上げは2月とは異なり、企業利益の力強い伸びと、公正な株価バリュエーションが支援材料になっていると考える(図表3参照)。
さらに重要なことは、新総理の誕生、新たな経済政策、ワクチン接種率が7割に到達し(願わくは)新規感染者数が減少することへの期待が高まる中、今後1~2カ月間は株式市場で力強い基調が持続するとみられることだ。
現在日本の多くの主要都市で緊急事態宣言が発令されており、外食、旅行、エンターテインメントといった経済活動が制限されている。ほどなく緊急事態宣言が解除されればさらなる相場押し上げ要因となり、来年の企業利益をけん引するだろう。
米連邦準備理事会(FRB)が近々テーパリング(量的緩和の縮小)を開始しそうなことも支援材料だ。テーパリングにより米国金利が上昇し、米ドルに対して円が弱含む可能性がある。
上述の政治的、経済的な材料はすべて、短期的な株価収益率(PER)の上昇を正当化するものだ。足元の12カ月先予想PERは日経平均株価で18倍、TOPIXで15倍と、それぞれ過去10年間の平均と同水準である。
図表5が示す通り、現在の日本株式のPERは各国市場よりやや割安な水準にすぎない。だが、最近は海外投資家が日本株式をアンダーウェイトとしていることから、企業利益に加え、新政権と経済政策に対する投資家の期待感の高まりが相場上昇を支えると考える。
我々の2022年6月のTOPIXの目標値は、今の水準より8%ほど高い2,250だ。しかし円安と経済活動の再開を追い風に企業利益が予想外に上振れすれば、上方修正もありうる。
以上をまとめると、日本株式のバリュエーションはもはや割安とはいえないが、経済活動の再開に伴う米国と中国からの需要を追い風に上昇している。緊急事態宣言がほどなく解除されれば、国内需要の回復の恩恵を受ける業種が次の相場上昇の中心となるだろう。
UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィスジャパン・エクイティリサーチ・ヘッド
居林 通
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2006年9月にUBS証券株式会社にアナリストとして入社。以来、日本の株式、経済動向を分析し、国内・海外に発信している(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以前は1992年から2003年まで国内大手投資信託にてアジア株および日本株のファンドマネージャーを経験、その後2003年から2006年までヘッジファンドにて日本株の運用などに携わった。
日経CNBCなどにコメンテーターとして出演する傍ら、日経ビジネス、日経新聞、ロイターなどの各種メディアでも解説記事、インタビューなどを通してUBSの投資見解を提供している。現在の連載は週刊ダイヤモンド「株式市場 透視眼鏡」、日経ビジネスオンライン「市場は晴れ時々台風」。2001年エモリー大学ゴイズエタビジネススクール(米国アトランタ)にてMBA取得。