中国投資

共同富裕:新たな成長軌道

習近平国家主席の「共同富裕」構想の影響が中国の金融市場に及んでいる。一時的にボラティリティが高まるものの、長期的には、健全で持続可能な経済発展につながるものと考える。

  • 習近平国家主席が最近強調している格差是正スローガン「共同富裕」と、これに関連する各種の規制強化の影響が、中国の金融市場に及んでいる。この政策シフトにより、短期的にはボラティリティ(変動率)が高止まる可能性があるものの、長期的には、「共同富裕」への取り組みは健全で持続可能な、調和ある経済発展につながるものと考える。
  • 7月の中国の経済指標は減速感が強まった。政策は成長重視の姿勢に転じており、年後半は預金準備率(RRR)の追加引き下げ、地方政府債の発行加速、財政支出拡大を予想する。
  • 耐久消費財・サービスは、「共同富裕」方針の恩恵を受けるとみている。また、政策の一環としてイノベーションの発展に注力していることから、インターネット・プラットフォーム企業の中長期の成長見通しも依然良好とみられる。グリーンテックの魅力度も引き続き高いと考える。
  • 中国不動産セクターの債券には全体として慎重姿勢を維持し、「3つのレッドライン」規制で「グリーン」に分類される不動産開発企業の短期債を選別的に推奨する。コモディティは魅力度が高い。また、日本円ベースの投資家には人民元の買いポジションを維持することを勧める。

共同富裕:新たな成長軌道

1992年、鄧小平氏は「先に豊かになれる者から豊かになればいい」とする方針を唱え、経済発展を優先する路線への転換を進めた。その後30年で、中国の保有資産10億米ドル以上のビリオネア(超富裕層)は約700人、同100万米ドル以上のミリオネア(富裕層)は500万人を超えるまでに急増し、その数は米国に次いで世界第2位となった。

このように、中国では「少数の者」への富の集中が進んだことから、習主席は、次の社会発展⽬標として「共同富裕(ともに豊かになる)」を前面に打ち出す姿勢をみせている。習氏は2017年の第19回党大会ですでにこの構想を示していたが、今年8月の中国共産党中央財経委員会で「共同富裕」を促進する考えを改めて強調し、拡大する社会的不平等を是正する方針を掲げた。

共同富裕とは「全人民の間で物質的にも精神的にも豊かさが共有されることであり、徐々に実現されるべき」であり、その目指すところは、成長重視から持続可能な経済モデルへの移行を加速させることである。この理念においては「全人民による共有」と「平等な分配」を区別することが重要である。前者は一律的な再分配ではなく、全ての人に豊かになる機会を作ることである。「共同富裕」は、家計所得の引き上げ、社会福祉制度の改善、貧富格差の縮小を意味する。

投資家は地殻変動とも言うべきこの政策シフトの影響をすでに感じ取っている。教育セクターを対象とする規制強化や住宅価格の抑制なども、この基本方針に沿ったものである。しかし、こうした構造変化により、短期的にはボラティリティの高止まりが予想されるが、長期的には、健全で持続可能な、調和ある経済発展が実現し、イノベーションが促進され、富がより平等に分配されるものと考える。


本稿は、UBS AG Hong Kong Branch、UBS Securities Co. Limited および UBS AG Singapore Branch が作成した“Investing in China: Common prosperity: The new path of development”(2021年8月30日付)を翻訳・編集した日本語版として2021年9月8日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。

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