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5000台乗せを目指すS&P500

S&P500種株価指数は先週、今年50回目の過去最高値更新を記録し、初めて4,500を突破した。また、年初来の上昇率も20%を上回った。

今週の要点

5000台乗せを目指すS&P500

S&P500種株価指数は先週、史上初めて4,500を突破し、年初来の上昇率は20%を上回った。7月の米消費者物価指数が前月比で鈍化したことや新型コロナウイルスの感染再拡大など悪いニュースが続く中、株価指数の大台突破は意外に思えるかもしれない。しかし、経済の再開と景気回復に向けた勢いは衰えておらず、株価には一段の上昇余地があると我々はみている。S&P500種の上昇は堅調な企業利益に裏付けられている。指標構成企業の4‐6月期の売上高と利益は85%以上で事前予想を上回り、業績は5四半期連続で予想を上回った。企業利益は指数構成企業全体で1年前の水準から90%近く上昇し、企業利益は今や新型コロナの感染拡大前の水準を30%近く上回っている。原材料費や輸送費などコストの上昇懸念にもかかわらず、売上は極めて堅調に伸びており、コスト圧力を跳ね返している。事実、S&P500種の4‐6月期の利益率は14%近辺と、数十年ぶりの高水準を記録した。供給が需要に追い付き始めれば、企業のコスト圧力は弱まるだろう。また、この1年、コロナ禍で家計の貯蓄が積み上がっており、消費者のバランスシートは数十年ぶりの健全な水準にある。消費者の需要に対応しようと、小売企業は在庫の積み上げを継続してゆくとみられる。

要点:以上から、我々はS&P500種の目標値を今年末については4,600、2022年末については5,000とする。景気回復が拡大する中で、エネルギーや金融など、景気感応度の高いセクターが上昇をけん引すると予想している。

原油価格に一段の上昇余地

ブレント原油価格は先週、3週連続の下落から反発し、11.5%上昇した。中国で新型コロナウイルスの国内新規感染者報告がゼロとなったことや、感染者1人の発生で操業を一部停止していた寧波・舟山港の大規模コンテナターミナルが2週間ぶりに再開されたことなどが好材料となった。原油価格は7月月初からこれまでに3.8%下落しており、デルタ株をめぐる懸念を受けボラティリティ(価格の変動)は続くと思われるが、世界経済の正常化が続き、石油輸出国機構(OPEC)による減産縮小は秩序だったペースで行われていることから、一段の上昇余地が見込まれる。国際エネルギー機関(IEA)の推計によると、北米と欧州で移動制限が緩和されたことを受け、6月の原油需要は通常季の3倍増となった。5月にインドで移動制限が解除されたときにも同様の動きが見られた。移動制限の解除に伴い、中国の原油需要は9月には回復するとみている。供給サイドでは、米・イラン間の核をめぐる交渉が暗礁に乗り上げていることから、イラン産原油が市場に戻る可能性は低いと考える。さらに、OPECは先ごろ決まった日量40万バレルの減産縮小計画を必要であれば延期、または撤回することも可能であると、サウジアラビアが明言している。新型コロナ禍が再燃する中、OPECプラス加盟国の中には、OPECプラスの計画に沿った増産がここ数カ月進まず、さらなる増産に寄与できない可能性が高い国もある。

要点:世界経済の再開に弾みがつく中、ブレント原油価格は年末までに1バレル=75米ドルに上昇すると予想している。原油価格の上昇は世界のエネルギー株式の追い風となる。コモディティ総合指数については、今後3~6カ月で1桁台半ばから後半のトータルリターンを予想している。原油とコモディティはインフレヘッジの役割も果たす

FRB、ジャクソンホールで緩やかなテーパリングを示唆

8月27日に米カンザスシティ連銀主催の経済シンポジウム(通称「ジャクソンホール会議」)がオンライン開催された。米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長はその講演で、このところの労働市場の回復を受け、年内にも債券購入の縮小を開始する可能性を示唆した。しかし、その論調がハト派寄りと捉えられたことから市場の反応は小幅にとどまり、同日のS&P500は0.9%上昇、米国10年国債利回りは低下した。まず、パウエル議長はテーパリングの時期に柔軟性を持たせ、新型コロナのデルタ変異株の感染状況を含め、「今後のデータとリスクの動向を慎重に評価する」と述べた。第2に、FRBはテーパリング開始後も利上げを急がないと述べた。利上げに向けた試金石は「かなり厳しく」、「最大雇用の達成に向けてクリアすべき多くの条件がある」と強調している。また、最近のインフレ上昇はパンデミックの影響を受けた比較的限られた財とサービスによるところが大きく、インフレによってFRBが早期の利上げを迫られることはないと強調した。加えて、インフレ圧力は今後後退してゆく見込みだとも述べている。7月の総合インフレ率は前年同月比5.4%と依然高い水準となったものの、「持続的に2%のインフレ率に達したかを判断するには時間が必要だ」と述べた。

要点:FRBは利下げを急いでおらず、金融緩和を継続することが予想される。そのため、利回りの追求は困難になるが、安定的に高配当が期待できる銘柄など、投資先の選択肢はほかにもあると考える。

5000台乗せを目指すS&P500

S&P500種株価指数は先週、今年50回目の過去最高値更新を記録し、更新回数は過去3年で最多となった。S&P500種は初めて4,500を突破し、年初来の上昇率も20%を上回った。新型コロナウイルスの感染再拡大に加え、7月の米小売売上高の下振れなど、ここ数週間の米国経済指標は強弱まちまちであることなどを踏まえると、大台突破は意外に思えるかもしれない。ジョンズ・ホプキンス大学のデータによると、世界の新規感染者数は9週間連続で増加している。米国では1日当たりの死亡者数が今年3月以来初めて1,000人を突破した。

しかし、株式には、以下のような理由から、さらなる上昇の可能性があると我々はみており、S&P500種は2022年末までに5,000に達すると予想する。

  1. 堅調な利益成長に支えられたS&P500種の上昇。増益基調は今後も続く見通し。 S&P500種企業の業績は5四半期連続で事前予想を大幅に上回った。指数を構成するほぼすべての企業が4‐6月期(第2四半期)の決算発表を終えたが、そのうちの85%以上が予想を超える利益および売上高を計上した。合計の企業利益は1年前の水準を90%近く上回っている。これは我々が当初予想していた80%の増益率を大きく上回っており、景気後退局面からの通常の回復ペースをはるかに凌ぐ結果となった。事実、企業利益はパンデミック前の水準を30%近く上回っており、好調な株価を支える一因となっている。この増益基調は、いくつかの理由から、今後も当面続くと予想される。収益は底堅い消費支出と企業による投資支出の追い風を受けるだろう。この1年で家計は貯蓄を積み増しており、消費者のバランスシートはここ数十年で最も健全な内容となっている。元利払いの対可処分所得比率もパンデミック前の10%程度から8%程度に低下した。一方、企業は需要拡大に供給が追いつかない状況にあり、設備投資を活発化させて在庫を再構築する必要があることから、これらも成長見通しを下支えする。最後に、多くの企業では投入コストが上昇しているものの、S&P500種の第2四半期の利益率は14%近辺と、数十年ぶりの高水準を記録した。経済の供給サイドが需要に追いつき始めるにつれ、利益率はさらに上昇するだろう。
  2. 経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」で、FRB高官はテーパリング後も金融緩和を維持すると表明。 パウエル議長は先週の講演で、「資産購入縮小のタイミングとペースは、利上げ開始時期に関する直接的なシグナルを意図するものではなく、利上げについては別の、さらに厳しいテストがある」と発言し、量的緩和の縮小(テーパリング)開始に向けて市場への地ならしを続ける一方で、利上げ開始については急がない考えを表明した。FRBの段階的なアプローチからは、2013年のテーパー・タントラムの再発を警戒する政策当局の慎重な姿勢がうかがえる。当時、バーナンキ元FRB議長が市場の想定より早いタイミングで金融緩和の一部引き締めを示唆したため、債券利回りが急上昇し、株価は下落した。パウエル議長が講演を行った27日、S&P500種は0.9%上昇し、米国10年国債利回りは1.33%近傍に低下、米ドルも下落した。我々の基本シナリオでは、FRBは、現在月間1,200億米ドル規模で実施している資産購入を、12月から毎月150億米ドルずつ減額すると想定している。
  3. 経済の正常化は、足並みに多少のズレはあるも、進捗が続いている。 先週は7月以来初めて、中国の新型コロナウイルスの新規感染者がゼロという好材料が発表された。コンテナ取扱量世界3位の寧波舟山港も、2週間の閉鎖を経て、操業を再開した。こうした動きは、中国の感染再拡大は、グローバル・サプライチェーンの混乱や世界のインフレ率上昇につながることなく、いずれ収束に向かうとの我々の見方を裏付ける形となった。アワー・ワールド・イン・データによると、先週は世界のワクチン接種回数が1日平均で約3,800万回に加速した。ピークだった6月の4,300万回は下回るものの、5月の2,000万回からは増加した。一方、ワクチン接種後の感染率、入院率、致死率は低下するとの調査結果も引き続き報告されている。デルタ株の感染が先行して広まったオランダ、ポルトガル、スペインなどでは感染がピークアウトしつつある。

インフレや地政学など、くすぶるダウンサイド・リスクに備えたポートフォリオを構築する必要はあるが、株式をめぐる投資環境はなお堅調とみており、経済再開と景気回復を捉える戦略が有効と考える。我々はS&P500種の目標水準を2022年6月については4,800、2022年末は5,000としており、力強い経済成長からの恩恵が期待できる銘柄に注目している。セクター別では、10年国債利回りの上昇が株価支援要因となる金融や、今年後半に見込まれる原油価格の上昇が追い風となるエネルギーを推奨する。世界の景気回復の影響を受けやすい日本株も有望と考えている。

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本稿は、UBS AGが作成したUBS House View-Weekly Global (2021年8月30日付)を翻訳・編集した日本語版として2021年9月1日付でリリースしたものです。本稿の末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本稿に記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本稿中の全ての図表にも適用されます。

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